「サラリーマンだけど、副業でしているFXの利益を事業所得として青色申告したい!」
そう思っている方は結構いるのではないでしょうか?青色申告をすれば青色申告特別控除などの様々な特典が受けられるので、税制上有利です。
しかし、FXによる利益は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象となっています(参照元:No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係|国税庁)。この規定は絶対で、FXによる利益を事業所得にする事は出来ないのでしょうか?
この記事ではサラリーマンがFXの利益を事業所得として青色申告するメリットやデメリット、また、そもそもFXの利益を事業所得として青色申告出来るかどうかなどについて見ていきたいと思います。
サラリーマンがFXの利益を事業所得として青色申告するメリットは?
サラリーマンが、副業で行うFXを事業所得として青色申告するメリットにはどの様なものが有るでしょうか、主なものを以下で見ていきましょう。
なお、一般的な青色申告のメリット・デメリットについては下記記事もご参照ください。
青色申告の特別控除(最大65万円)が受けられる!
青色申告をすれば、特別控除として最大で65万円を事業所得から差し引く事が出来ます(租税特別措置法第25条の2第3項)。
65万円分の必要経費をFXトレーダーが集めるのはなかなか大変ですよね。それが、青色申告をして帳簿をつけておくだけで認められるのです!
65万円の控除が認められるのと認められないのとでは、最低税率(所得税5%+住民税10%)の場合でも97,500円もの差が出ます。これを逃す手はないですね。
青色申告をすれば、FXで損失が出た時に他の所得との損益通算や損失の繰越控除が出来る!
FX取引によって損失が出た場合、確定申告をする事で「申告分離課税の先物取引に係る雑所得等」との間で損益通算をする事が出来ますし、損益通算によっても損失を消化しきれない場合は将来3年間にわたって損失を繰り越す事も可能です。
但し、FX取引による損益通算や繰越控除はあくまでも雑所得内で認められるもので、他の所得と損益通算が出来る訳では有りません。従って、損益通算の対象となる雑所得が他に無ければ、FXによる損失を有効に活用する事が出来ないのです・・・。
この点、FXによる利益を事業所得として青色申告をすれば、給与所得等の他の所得と損益通算が出来ますし、他の所得と通算しても損失が残る場合は翌年以降に損失を繰り越す事も出来るので、FXの損失を最大限活用する事が出来ますね。
専従者給与を必要経費に出来る!
「毎日FX取引をしているけど、自分の勤務中は配偶者等の家族に取引や情報収集の手伝いをしてもらっている」という人も中にはいるでしょう。その様な場合、雑所得では専従者給与が認められていないので、仮に配偶者に給料を払ったとしても必要経費としては認められません。
しかし、事業所得として青色申告をすれば専従者給与が認められるので、配偶者に支払った給与を必要経費として計上する事が出来ます(参照元:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁)。FXで結構利益を得ている方であれば、上手に専従者控除を活用して所得の分散が出来ますね。
サラリーマンがFXの利益を事業所得として青色申告をするデメリットは?
一方で、サラリーマンがFXの利益を青色申告する事によるデメリットとしてはどの様なものが有るのでしょうか。以下で見ていきましょう。
記帳が面倒!
FXの利益を雑所得として申告する場合、確定申告はそれほど難しくありません。FX業者から貰える年間取引報告書を見れば取引による利益額は分かりますし、必要経費も電卓で集計して申告書に記載すればOKです。
しかし、青色申告をして65万円の特別控除を受けようと思ったら話は別です。
65万円の特別控除を受けるには複式簿記による記帳をしなければならないので、手書きで帳簿や決算書を作るのは難しいでしょう。この場合は、会計ソフトを購入して地道に取引を打ち込んでいくか、面倒若しくはやり方が分からないのであれば税理士に確定申告を依頼する事になるでしょうね。
会社を辞めても失業保険が貰えなくなる!?
これはサラリーマンとしては結構痛い話ですね。
通常、サラリーマンは会社を退職すると次の就職先が見つかるまでの間、失業保険を貰う事が出来ます。
しかし、失業保険が貰えるのは現に失業の状態の方のみです。この点、FX所得を事業所得として青色申告している場合は、仮に勤務先を退職したとしても個人事業主として開業している状態となっています。
従って、FXを事業所得として申告していると、再就職はせずにFXで生計を立てていくものとしてみなされ失業保険を貰えない可能性が高いのです。
税務調査の入る可能性が高くなる!?
ほとんどのサラリーマンにとって税務調査は無縁ですよね。給与所得に対して税務調査が入る事はまずありません(給与に関して税務調査が行われる場合は、給与を支払っている会社に調査が入ります)。
そして、雑所得としてのFX取引に対して税務調査が入る可能性は有りますが、取引損益に関してはFX業者から税務署に支払調書が提出されており、利益が出ているかどうかは筒抜けです。
従って、損益をごまかさずに期限内にきちんと確定申告をしている限り、FXによる雑所得に関して税務調査が入る可能性はかなり低いでしょう。
しかし、サラリーマンがFXを事業所得として青色申告する場合は話が別です。原則として雑所得であるFX利益を、敢えてサラリーマンが事業所得として青色申告する場合は税務署からすると恰好の調査対象となります。
FXの損失を給与所得等と損益通算している場合は、損益通算を否認出来る可能性が有りますし、青色申告特別控除(65万円)を受けている場合はそこを否認する事も考えられますからね。
従って、サラリーマンがFX利益を事業所得として青色申告すると、税務調査のリスクが一気に高くなると考えておいた方が良いでしょう。
そもそも、FXの利益は事業所得として青色申告が認められるの?
上記で、サラリーマンがFXの利益を事業所得として青色申告するメリットやデメリットについて書いて来ましたが、そもそもFX利益の青色申告は認められるのでしょうか?
この点について以下で見ていきましょう。
青色申告が認められるのは、以下の3つの所得のいずれかがある方です(所得税法第143条)。
- 不動産所得
- 事業所得
- 山林所得
参考:青色申告をするには、予め税務署に開業届と青色申告承認申請書を提出しておく必要が有ります。なお、青色申告承認申請書の提出期限は3月15日(1月16日以降に事業を開始した場合は事業開始後2ヶ月以内)です。
この内、FXの利益が該当する可能性を秘めているのは事業所得なので、以下では「FXが事業所得に該当するのか」について見ていきましょう。
事業所得については、明確な定義や要件が税法では特に定められていません。そもそもこれが、FXの利益が事業所得になり得るかを考えないといけない原因ですよね。明確に「FXは事業所得にはなり得ない!」と決まっていれば考える必要は無いのでしょうけどね・・・。
冒頭で書いた通り、FXの所得は「先物取引等による雑所得」として扱われるのが基本です。しかし、FX取引を「事業として行う」のであれば事業所得として扱われる可能性が無いとは言い切れません。
ただ・・・、この点については過去に国税不服審判書や裁判で争った方がいて、いずれもFXによる利益は事業所得として認められていません(例:平成22年2月16日裁決事例集No.79、横浜地裁判決(平成25年7月3日)等)。
簡単に過去の裁判をまとめると、以下の様な感じですね。
- ①給与所得の有る方がFXで損失を出した。
- ②雑所得として申告をすれば翌年以降のFXによる利益と相殺する事は出来るが、元々給与所得があるのでそちらと相殺をしたい。
- ③FXの利益を事業所得で申告して給与所得と相殺しよう!
- ④税務署に「事業所得とは認められない」と言われ争いに発展。
- ⑤判決で負けが確定し、FXの利益は雑所得に。
FXは偶然の要素が大きく投機的な意味合いが強いものなので、取引を繰り返し行ったとしても事業とは言えないというのが国税局の考え方です。
中にはFXで継続的に利益を得ている方もいるでしょうから、「納得がいかない!」と叫びたくなる気持ちも分かりますが、ほとんどの方が継続的に利益を出せていないのが実情なので、そう考えられても致し方ありません。
その上で判決では、FXを事業所得として扱うには以下の様な点から総合的に考える必要が有る、としています。
- FX取引を継続的に行っているか
- 事業と言えるだけの規模で取引を行っているか
- 事業としての外観を備えているか
- 主に生計をFX取引でまかなっているか
上記の条件から考えると、FXの利益を事業所得として申告するのは難しそうですね・・・。
結果として「事業所得として申告するのが難しい=青色申告をする事が難しい」ので、サラリーマンがFX所得を事業所得として青色申告するのは難しいという事ですね。従って、サラリーマンが副業でFXをしてお小遣いを稼いでる様なレベルでは、事業所得として青色申告する事は到底出来ないでしょう。
事業所得として認められるとすれば、「会社勤めはしているけど勤務時間以外はFX取引を継続的にしており、給与よりもFXによる毎月の利益の方が圧倒的に多く、FX取引専用の事務所を借りてスタッフも雇って本格的に取り組んでいる」様な状況でしょうね。
そこまでしたとしても、絶対に事業所得として認められるとは言えないでしょう。
裁判のより詳しい内容等については「FX専業トレーダーのFX所得は事業所得or雑所得?」で解説しているので参考にしてください。
但し、税金の考え方は時代の流れによって変わっていくものです。特に金融商品に関する分野の税制は目まぐるしく変わっています。
FX取引についても、日本に登場した当初は詐欺行為が横行したり多額の脱税をする人が多かったりと問題を抱えていましたが、金融庁によるガチガチの整備により問題も解消されてきました(関連記事:FXの税率及び税制改正の歴史【2024年最新版含めまとめ表あり】)。
今後、金融商品のさらなる多様化やグローバル化が進む事により、FX取引に対する社会の関心も変わって来る可能性は十分に有ります。そうなると、現在の取扱も変わってサラリーマンでもFXの利益を事業所得として青色申告出来るときが来る・・・かもしれないですね。
(参照元:所得税法における所得分類の現代的意義ー岡山大学)
まとめ
サラリーマンが、FXの利益を事業所得として青色申告するメリットやデメリットについてみて来ました。税金面では青色申告をした方がメリットは有りますが、そもそもサラリーマンが副業として行うFX取引が事業所得として認められる可能性は低いでしょう。
軽い気持ちで事業所得として確定申告をすると、後々税務調査が入ってかえって損をしてしまう事も有り得るので、事業所得として申告出来るかどうかは税理士や税務署等に予め相談しておく事をオススメします。
なお、仮に事業所得として申告が出来るとしても、そもそも勤務先で副業が認められているのかどうかは確認しておいて下さいね。
単にFX取引をするだけであれば副業とはみなされないでしょうが、事業所得として申告する場合は副業としてみなされる可能性が高いと思いますよ!