「FXやCFD取引(差金決済取引)の確定申告が面倒臭い!特定口座で源泉徴収してくれればいいのに・・・。」
FXトレーダーであれば、こんな不満をきっと1度は抱いた事があるでしょう。
株式取引は証券会社が自動で税金計算をしてくれるので、確定申告しなくても大丈夫です。しかし、FX取引の場合、言い方は悪いですが税金計算は客(納税者)任せです。つまりFXにおいて源泉徴収制度はありません。
なぜこの様な違いが起きるのでしょうか?ここでは、株とFXやCFD取引の税金計算(源泉徴収)制度について見ていきましょう。
【前提】FXで1年間の利益(所得)の金額が20万円を超えたら確定申告が必要!
まず、前提として「FX等の利益は必ず確定申告が必要なのか?」という点について、簡単におさらいしておきましょう。
FX取引(株式取引も同様)をして利益が出た場合、原則として確定申告が必要です。
しかし、どんな場合でも確定申告をしなければならないという訳ではなく、例外もあります。
それは、「給与所得者(サラリーマン)で給与以外の所得が20万円以下だった場合」です。例えば、年収500万円の方が副業でFXをして年間15万円の利益を得た場合(他の所得はなし)、20万円以下なので所得税の確定申告をする必要はありません。
一方で、年間の利益が30万円だった場合は、給与所得以外の所得が20万円超なので確定申告をする必要があります。
なお、専業主婦や学生・個人事業主等は、年間の所得が48万円を超えたら確定申告をしなければなりません。
この点を大前提として、以下で株式やFXの源泉徴収制度について見ていきましょう。
株式取引は特定口座で源泉徴収してもらうのが基本!
株式取引をした際の利益は、譲渡所得として他の所得と区分して一律20%(所得税15%・住民税5%)の税金が課税されますよね。これを申告分離課税といいます。
株取引の利益に対して20%の税金が課税されるのは皆同じなのですが、税金の申告の仕方は口座開設時に選択した取引口座(一般口座・特定口座)によって異なります。
簡単に図解しますね。
まず、「一般口座」では証券会社が年間取引報告書を作ってくれないので、自分で1年間の取引を集計して確定申告をしなければなりません。これはとても面倒ですね。従って、あまり選ぶ方はいません。
次に特定口座ですが、「簡易申告口座」と「源泉徴収口座」に分かれています。
簡易申告口座は、証券会社が発行してくれる”年間取引報告書”という口座内の所得計算結果が書かれた書類をもとに、自分で確定申告をする方法です。申告書に書くべき数値が年間取引報告書に記載されているので簡単ですよ。
なお、自分で確定申告をする事が前提なので、源泉徴収はされません。
最後に、源泉徴収口座は、株式取引で利益が出た際に、証券会社がその都度源泉徴収(所得税15.315%・住民税5%)をする方法です。この場合は、基本的に確定申告をする必要は有りません(確定申告する事も出来ます)。
(参考:国税庁「タックスアンサー 特定口座制度」、租税特別措置法第37条の11の3〜6)
但し、源泉徴収口座を選択すると利益に対して必ず源泉徴収されるので、確定申告が不要な方の場合は税金を払いすぎてしまう、というデメリットがあります。
以上の様に、株式取引については特定口座が用意されているので、希望すれば面倒な確定申告手続きをせずに心ゆくまで取引をする事が出来るのです。
なお、参考までに全体の8割くらいの方が口座開設時に「源泉徴収有りの特定口座」を選択している様ですよ。
FXやCFDは特定口座の開設が不可なので、源泉徴収されない!
次にFXについてですが、FX取引による利益は「先物取引による雑所得等」として20%(所得税15%・住民税5%)の税金が課されます。税率は株と同じですね。
上で説明した様に、証券会社で口座を開設する際に特定口座の源泉徴収口座を開設すれば、取引で生じた利益に対して源泉徴収され、確定申告が不要となります。
それなら、「FXやCFD取引でも特定口座(源泉徴収口座)を開設すれば確定申告しなくて済むから楽!」と思いますよね。
しかし、残念ながら証券会社やFX業者では、FX(店頭FX・取引所FX)やCFDに関して特定口座を開設する事は出来ません。従って、源泉徴収してもらう事は出来ないです。
なぜなら、この特定口座や源泉徴収制度は租税特別措置法によって成り立っているのですが、法律上源泉徴収の対象としているのが上場株式等(信用取引を含む)に限定されているからです。(租税特別措置法第37条の11の4)
対象の中に、FXやCFD取引は含まれていないため、FX業者に「源泉徴収してください!」と言っても対応してもらう事は出来ない、という訳ですね。
従って、利益が出た場合は自分で確定申告をしなければなりません。但し、FX業者は年間取引報告書を作成してくれるので、株式取引でいう一般口座というよりは特定口座の簡易申告口座の様なイメージの方が近いですね。
なお、FXで損失が出た場合、FX取引同士の損益通算は出来ますが、株式等の利益と損益通算する事は出来ません。どちらも投資で税率も同じなので相殺出来ればいいんですけどね・・・。「FXで利益出たけど株でマイナスだったから、相殺して税金ゼロ!」とはならないので注意しましょうね。
【参考】将来的にはFXやCFD取引も源泉徴収の対象になるかも!?
もう大分前の話ですが、過去にFXやCFD取引についても特定口座制度を導入しようという流れがありました。
各省庁は毎年「税制改正要望」という、次の税制改正に織り込んで欲しい事項をまとめた書類を財務省に提出するのですが、平成23年度税制改正時に金融庁が提出した税制改正要望項目には以下の記載があります。
デリバティブ取引等(市場・店頭)について、「特定口座」での取扱いを認めること
「これで確定申告のストレスから解放される!」と期待した方もきっとたくさんいたでしょう。
しかし、残念ながらその後の税制改正大綱には、この要望が反映されていなかったので、見送りになった様です。
しかも、直近では金融庁から平成30年度税制改正要望が出ていますが、そこにFX取引を特定口座に入れる要望は出てきていません。
「もう特定口座に組み入れられる事はないのかな・・・。」と思うかもしれないですが、ここ数年日本では金融所得課税の一体化が叫ばれています。また、最近は暗号資産(仮想通貨)税制に関する期待も大きいので、今のところ、FX取引を特定口座に組み込む議論はストップしているのかもしれないですが、また近い将来議論が再燃することを期待出来そうな気がしますね!
但し、実はそう簡単な話でもない様です。
というのも、特定口座(源泉徴収あり)にすると、その対象となった所得は福祉の基礎収入金額や国民健康保険料の算定対象所得に含まれません。
そうすると、仮に株取引以外の収入が全くない方の場合、税金は取引利益の20%払っていますが、福祉上の扱いは低所得者(住民税非課税世帯)となります。
従って、国民健康保険の減免措置や、保育料の減免措置、高額医療費制度の負担額最低などの恩恵を受けられることになってしまうのです。仮に株の取引が5億円ある場合でも、です。
しかも、源泉徴収の有る特定口座の場合、利益が出ていたとしても親族の扶養から外れる事は有りません。
それはちょっとおかしいですよね・・・。
従って、何でもかんでも特定口座に突っ込めば良いという訳ではないので、FXを特定口座に入れるのも簡単にはいかない様です。今度どうなるのかはわからないですが、税制の動向については常に最新の情報を追っかけていきたいですね。
最後に
株取引には特定口座による源泉徴収制度があるのに、FX取引やCFD取引にはなぜ源泉徴収制度がないのか、という点について見てきました。
理由自体はとても簡単で、「法律上FXやCFDが特定口座の対象となっていないから」です。
FX業者等にお願いしてもどうしようもすることが出来ない点なので、FX取引については粛々と確定申告作業をする様にしましょうね。
なお、「面倒だから確定申告するのやめた!」なんて言ってはダメですよ。FX取引は税務署がFX業者からの支払調書により、全て把握しています。申告しなかったらあとでほぼ確実に税務署から連絡がきますよ。