「海外FX口座の口座資金ってどうやって円換算すればいいの?」
こういった疑問を持たれる方が、海外FX業者の利用者には多い様です。
海外FX業者の場合、取引口座の資金はドル建(※)なので、取引によって生じた損益を日本円に換算しなおして確定申告をしなければなりません。その際、換算の際の為替レートは一体いつのものを使えば良いのでしょうか?また、取引毎に換算をしないといけないのでしょうか?
以下で見ていきましょう。
※:海外FX業者の口座には、「円口座」と「ドル口座」が有ります。円口座は国内FX業者と特に変わりないので、円換算の必要は有りません。ここで取り上げるのはドル口座のケースです。
個人の場合:原則は取引毎に換算しなければならないが、実務的には平均レートも可!?
個人で海外FX業者を通じて取引をしている場合、トレード毎に取引時の為替レートを使って換算をするのが原則的な(本来有るべき)処理です。
この点については、所得税法第57条の3第1項に外貨建取引の換算に関する規定が有ります。
(外貨建取引の換算) 第五十七条の三 居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下この条において同じ。)を行つた場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。次項において同じ。)は当該外貨建取引を行つた時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする。
そして、所得税法基本通達57の3−2には以下の様に記載されています。
法第57条の3第1項((外貨建取引の換算))の規定に基づく円換算は、その取引を計上すべき日における対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の仲値による。 (分かりやすくする為に一部括弧書きを省略しています)
要約すると「外貨建取引については、取引をした日の為替レート(仲値=TTM)を使いましょう」という事ですね。
しかし、実際に全てのトレードを取引時のレートを使って円換算するのは、途方も無い作業です。
年に数回しか取引をしない方であればまだしも、デイトレーダー(特にスキャルピングをしている方)にとっては非現実的な話ですよね。税理士に換算の作業も含めて丸投げして悩みから逃れるというのも良いですが、それはそれでお金が必要になります。
そこで、実務的には「各月の平均レート」を使って換算するのもありです。もちろん継続的に適用することが条件ですが。
なお、銀行のホームページでヒストリカルデータを見れば、各月の平均レートが分かります。参考までに、主要メガバンクのヒストリカルデータのページへのリンクを貼っておきますね。
簡単な計算例を1つ見てみましょう(1ヶ月分のみ)。
取引及び換算結果は以下の通り(換算レートは三井住友銀行のヒストリカルデータを参考)。
取引 | 損益額 (①) | レート (②) | 換算額 (①×②) |
---|---|---|---|
1 | 1万$ | @114.38円 | 1,143,800円 |
2 | -0.2万$ | @113.07円 | -226,140円 |
3 | 0.5万$ | @112.19円 | 560,950円 |
4 | 0.2万$ | @111.02円 | 222,040円 |
合計 | 1,700,650円 |
1ヶ月に4回取引をしただけでも結構面倒ですね、これが12ヶ月分となり何十回何百回も行われる事を考えると気が滅入りますね・・・。
そこで、この月の平均レートを使えば一発で計算が出来るのです(今回の例では@112.96円を使用)。
外貨建ての総損益は1.5万ドル(=1万-0.2万+0.5万+0.2万)なので、これに平均レートの112.96を掛けると1,694,400円となります。
取引毎に計算した場合との差額は6,250円です。これくらいの差であれば税務署も何も気にしなさそうですね。
ちなみに、個人の場合は法人と違って「未決済ポジション」の含み損益をカウントしなくていいので、未決済ポジションにかかる換算は無視して構いません。
口座に外貨建でお金を置いていた場合の為替差損益は認識する必要無し!
FX取引でポジションを決済し、ドル建てのまま口座資金を置いている事が有りますよね。この場合、長い間放置しているとその間に為替レートが変動して取引を決済したときと口座からお金を引き出したときとで為替差益が発生する事が有ります。
この際に発生する為替差益については所得税の確定申告上は認識する必要が有りません。
どういうことかというと、所得税法施行令第167条の6第2項では、以下の様に規定されています。
外国通貨で表示された預貯金を受け入れる銀行その他の金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入は、法第五十七条の三第一項に規定する外貨建取引に該当しないものとする。
つまり、①同一の金融機関に、②同一の外国通貨で、③継続して預け入れる場合の預貯金の預け入れは、外貨建取引には該当しないということです。
まさしく、外貨FX業者の口座に残っている外貨建の残高が該当しますね。従って、海外口座に外貨建てで資金を置いていて為替差益が発生したとしても、所得税の計算上は認識する必要が無いのです。
(参照元:外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い|国税庁)
法人の場合:期末レートで換算すればOK!
法人の場合は、個人と違って換算作業で悩む事はあまり無いでしょう。
原則としては、法人でも個人と同じ様に取引時のレートで評価をする事になりますが(法人税法第61条の8第1項)、法人の場合は期末時の外貨建資産は期末レートで換算しなければなりません(法人税法施行令122条の7)。
従って、期中に行ったトレードをどのレートで換算したとしても、最終的に証拠金残高を期末レートで換算し直すので、損益の額に影響は無いのです。ドル口座内に資金が有る限り、日々のレートをどれにしても関係ありません。
簡単な例を見てみましょう。分かりやすくする為に、期中の出金は無く取引は1月と2月のみとします。
取引条件は以下の通り。
- 期首(1月1日)の証拠金:10万ドル(1ドル=100円)
- 1月の利益:1万ドル(1ドル=102円)
- 2月の損失:0.2万ドル(1ドル=103円)
- 期末の証拠金10.8万ドル(1ドル=105円)
期首の預け金評価額
10,000,000円
(10万ドル×100円=10,000,000円)
期末の預け金評価額
11,340,000円
(10.8万ドル×105円=11,340,000円)
差額(売上計上)
11,340,000円-10,000,000円=1,340,000円
預け金 1,340,000円 / 売上 1,340,000円
気づいた方もいらっしゃると思いますが、1月や2月の取引に関しての仕訳はありませんね。要は、期末の残高に換算レートをかけたものから期首元本を差し引けばよいだけです。従って、わざわざ取引毎にその時のレートで換算をしていく必要はないのです。
しかし、現実的にこの様な感じになる事はまず無いでしょう。なぜなら、期の途中で資金の追加や引出しが有るからですね(法人の場合は口座から引き出した際の為替損益も認識します)。上で紹介した計算例はあくまでも参考程度に。
なお、法人の場合は、未決済のポジションについても期末日のレートで換算して為替損益を収入若しくは経費として計上しなければなりません。含み損の場合はまだしも、含み益の場合は売上の計上漏れとなるので、特に注意が必要ですよ。
海外FX業者を利用していると税務署から連絡が来るケースも!?
国内FX業者を使ってきちんと確定申告をしていると、税務署から連絡が来る事は基本的には無いでしょう。そもそも、国内FXの取引については業者から税務署に支払調書が提出されていますからね、利益が合っているかどうかは一目瞭然だからです。
一方で、海外FX業者を利用して、確定申告を自分なりに頑張ってしていたのに税務署から連絡や呼び出しのハガキが来る事も有ります。これは、取引の換算方法が間違っているケースが多いからの様です。
後々税務署から連絡が有った際に税務署の担当者にきちんと説明する為に、換算に利用したレートやサイトなどをしっかりと保存しておく様にしましょうね。
なお、税務署から連絡が来るかもしれないというドキドキ感が嫌な方は、税理士に確定申告の依頼をするのも1つの手ですね。
まとめ
海外FX業者を利用する上で為替換算は悩みの種ですが、「個人の場合は各月の平均レート」、「法人の場合は期末レート」と考えておけば、楽に確定申告が出来そうですね。
なお、海外FX業者には国内FX業者にないメリットやデメリットが有ります。FX業者を決める際には、しっかりと特徴を把握した上で選ぶ様にしましょうね。