「相続で償却資産を取得したんだけど、減価償却は親がやっていた方法を引き継げ良いの?」
「相続により取得した資産は自分にとっては中古だから中古資産として耐用年数を求めても良いのかな?」
被相続人が無くなった後、相続人は怒涛の日々を過ごします。
役所への届出やお通夜・葬儀の手配、銀行口座やクレジットカードの解約手続きなどなど、やることは多岐に渡りますよね。
こういった手続きだけでも大変なのに、死亡後4ヶ月以内に被相続人の準確定申告、10ヶ月以内には相続税申告の手続きをしなければならないのですから、正直本当大変です。
そして、やっと落ち着いたと思ったら相続で事業を引き継いだ自分の確定申告・・・
本当、大変です。
で、この自分の確定申告で間違えやすいのが事業用の償却資産の「減価償却」です。
被相続人がやっていた方法をそのまま引き継げば良いんでしょ!と思いがちですが、実はちょっと違うのです。なぜなら、相続人が引き継げるものと引き継げないものが存在しているからですね。
ただ、内容を理解すれば計算方法は簡単です!
以下、計算の具体例も交えながらを見ていきますよ。そもそも減価償却が分からない!という人は「減価償却のポイントがマルっと分かる記事」を先に読んでくださいね。
相続した償却資産に関して被相続人から相続人が引き継ぐもの・引き継がないもの&計算する上でのポイント
計算を見る前に、減価償却資産に関して相続人が被相続人から引き継ぐもの・引き継がないものをまとめておきます。
引き継ぐもの | 引き継がないもの |
---|---|
取得価額 | 取得年月日 |
未償却残高 | 償却方法 |
耐用年数 |
それぞれポイントをまとめていきましょう。
取得価額・未償却残高は引き継ぐ
取得価額と未償却残高は引き継ぎます。
たとえば、取得価額2,000万円、未償却残高1,200万円の資産を相続で取得したとしましょう。
このとき相続人は、定額法を利用する資産であれば「取得価額20,000,000円」をベースに計算を行いますし、定率法を利用する資産であれば「未償却残高1,200万円」をベースに計算を行っていきます。
取得価額と未償却残高は当然に引き継ぐ事を知っておきましょう。
耐用年数も引き継ぐ!
中古資産として簡便な計算方法で耐用年数を求めたらダメ!
耐用年数は被相続人が使用していた年数を引き続き使用します。
相続で取得した自分からすると中古資産だから、中古資産の間便法で耐用年数が出せるのでは?と勘違いしてしまいがちですが、出来ません。あくまでも被相続人の耐用年数を引き継ぐことに注意しましょう。
取得日&償却方法は引き継がない
減価償却資産の償却方法は「取得日」によって選択できる方法が違います。
個人の場合だと、たとえば平成10年3月31日以前に取得した建物には旧定率法が使えましたが、平成10年4月1日以後に取得した建物は定額法しか利用できません。
では、被相続人が建物に旧定率法を選択していたとして、相続人がそのまま旧定率法を利用できるでしょうか?⇒これは残念ながら出来ません。
なぜなら、所得税基本通達49-1において、所得税法施行令120条1項、120条の2第1項に規定する「取得」には相続や贈与等による「取得」も含まれると書いてあるからです。
所得税法施行令120条や120条の2は「取得日によって適用可能な減価償却の方法」を定める規定ですから、あくまでも相続人は「被相続人の死亡日(資産を引き継いだ日)」を取得日として償却方法を選択しなければなりません。
なので、先ほどの建物の例で言ったら相続人は旧定率法ではなく定額法で償却していくことになります。
ちなみに、個人事業主の法定償却方法は原則として定額法です。
ですから、相続人は基本的に定額法で計算していく事になりますが、「機械装置・車両運搬具・工具器具備品」に関しては税務署に届出・申請をすることで「定率法」を選択する事も可能です。
もし定率法を選択したい資産がある場合には、相続した年分の確定申告期限までに必要書類を税務署に提出して下さい。手続方法は下記記事を参照して下さい。
相続で取得した資産の減価償却費計算例(準確定申告の場合も紹介)
【計算前提】
Bは令和2年6月4日にAから構築物を相続により取得した。構築物の取得価額等の概要が以下の通りであった場合、Aの確定申告およびBの準確定申告で計上される減価償却費はいくらか?
(1) 取得年月:平成28年1月
(2) 取得価額:5,000,000円
(3) 法定耐用年数:10年
(4) 償却率:定率法(200%償却)は0.200、定額法は0.100
(5) 被相続人が選択していた償却方法:定率法(200%償却)
(6) 相続人は償却方法を選択していない
(7) 令和2年1月1日の未償却残額:2,048,000円
【Aの準確定申告で計上する減価償却費】
準確定申告での減価償却費の計上は被相続人がやっていた方法をそのまま引き継ぎます。ポイントは減価償却費の月割計算は、1月から死亡日を含む月までの計上が可能であること(所得税法施行令132条など)。
2,048,000×0.200×6÷12=204,800
この時点で未償却残高は1,843,200円
【Bの確定申告で計上する減価償却費】
相続人は償却方法を選択していない個人事業主なので「定額法」で償却していく事になります。また、相続人であるBの減価償却費の月割計算の開始月は6月からですので7ヶ月分の償却が可能です。
5,000,000×0.100×7÷12=291,667(円未満切上)
この時点での未償却残高は1,551,533円
以上のようになります。
なお、減価償却費は通常12ヶ月分しか計上できませんが、相続した年の減価償却費は被相続人の準確定申告分と合わせると13ヶ月分償却出来ることになっていますので注意して下さい。
国税庁のHPに別の計算例も載っているのでそちらもご参照ください!
⇒平成19年4月1日以降に相続により減価償却資産を取得した場合|国税庁
【参考】譲渡所得の計算上は取得時期を引き継ぐ
譲渡所得は、売却した資産の所有期間によって税率が変わります。
相続で取得した資産が長期譲渡所得に該当するのか短期譲渡所得に該当するのかの判断にあたっては、被相続人の取得日をそのまま引き継いで判断しますよ。
減価償却の計算とごっちゃにしないようにしましょう。
まとめ~開業届や青色申告承認申請書も忘れずに提出しよう!
相続により取得した償却資産の減価償却の方法を見てきました。
「取得日・償却方法」は引き継がない!というのがポイントでしたね。もし、償却方法を選択したいのであれば相続した年分の確定申告期限までに税務署に届出を出すようにしましょう。
また、被相続人が青色申告者だった場合の青色申告承認申請書の提出期限はかなり変則的です。
相続時の青色申請書の提出期限 | |
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① 相続を開始した日がその年の1月1日から8月31日までの場合 | 相続を開始した日から4か月 |
② 相続を開始した日がその年の9月1日から10月31日までの場合 | その年の12月31日まで |
③ 相続を開始した日がその年の11月1日から12月31日までの場合 | その年の翌年の2月15日まで |
開業届と合わせてこちらも忘れずに提出しておきましょうね!