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個人事業主が選択可能な減価償却方法と法定償却方法まとめ【比較で法人もあり】

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個人事業主の法定償却方法

減価償却の方法には主に「定額法」と「定率法」の2つがありますが、個人事業主の法定償却方法は「定額法」です。

法定償却方法とは、その名の通り法的に定められた償却方法のことで、税務署に「償却方法の選択の届出・申請」をしていない場合に利用することになる減価償却の方法の事です。

基本的に個人事業主の場合は、計算の簡便性や費用の均一化等の観点から「定額法」で処理しておくのが良いのかなとは思いますが、節税の観点から減価償却方法を変更したい!と考えている人もいるでしょう。

そこで、今回の記事では個人事業主が選択できる償却方法を資産の種類別にまとめておくとともに、変更手続きのやり方・提出書類についても紹介していきます。

なお、本記事は「個人事業主」に向けた記事ですが、比較の観点から「法人の場合」についてもまとめていますよ。

注:本記事では、鉱業用減価償却資産に利用できる生産高比例法やリース資産のリース期間定額法については触れていません。
目次

【現行】法定償却方法と選択可能な償却方法のまとめ【個人・法人】

資産の種別 個人事業主 法人
法定償却方法 選択可能な
償却方法
法定償却方法 選択可能な
償却方法
建物 定額法 なし 定額法 なし
建物附属設備
構築物
車両運搬具 定率法 定率法 定額法
機械装置
工具
器具及び備品
無形固定資産
(ソフトウェアなど)
なし 定額法 なし

(出典:所得税法施行令120条、法人税法施行令48条など)

上表のように個人事業主の場合は定額法が原則です。
また、建物・建物附属設備・構築物・無形固定資産に関しては定額法以外の償却方法は選択できません。

選択可能なのは、車両運搬具・機械装置・工具・器具及び備品の4つですね。

なお、個人事業主の場合、減価償却方法は資産の種類ごと、かつ構造用途細目ごとに選択することが可能ですよ。たとえば、車両運搬具は定率法にするけど、機械装置は定額法にするいった事も可能ですし、車両運搬具の中でも「普通乗用車」は定率法、軽自動車は定額法と言ったことも可能です(参考:所得税法施行令123条)

事業所が2箇所以上ある場合は事業所毎・資産の種類別に選択することも可能です。
繰り返しになりますが、建物・建物附属設備・構築物・無形固定資産は選択の余地無く「定額法」でしか償却出来ません。

個人事業主の法定償却方法・選択可能な償却方法の取得時期別まとめ

税制改正により資産の取得時期によって、選択可能な償却方法が異なります。

令和に入ってからの改正は無いので、新たに取得した資産に関しては先ほどの「法定償却方法と選択可能な償却方法のまとめ」セクションに従って粛々と処理していけば良いのですが、

過去に取得した資産の「法定償却方法と選択可能な償却方法」も備忘録として残しておきます。

資産の種類 取得時期 法定償却方法 選択可能な
償却方法
建物 ~平成10年3月31日以前 旧定額法 旧定率法
平成10年4月1日~平成19年3月31日 旧定額法 なし
平成19年4月1日以後~ 定額法 なし
・建物附属設備
・構築物
~平成19年3月31日以前 旧定額法 旧定率法
平成19年4月1日~平成24年3月31日 定額法 定率法(250%償却)
平成24年4月1日~平成28年3月31日 定額法 定率法(200%償却)
平成28年4月1日以後~ 定額法 なし
・車両運搬具
・機械装置
・工具
・器具及び備品
~平成19年3月31日以前 旧定額法 旧定率法
平成19年4月1日~平成24年3月31日 定額法 定率法(250%償却)
平成24年4月1日以後~ 定額法 定率法(200%償却)
無形固定資産
(ソフトウェアなど)
~平成19年3月31日以前 旧定額法 なし
平成19年4月1日以後~ 定額法 なし

「定額法と旧定額法」、「旧定率法と定率法(250%償却)と定率法(200%償却)」の違いが分からない方は下記記事をご参照下さい。

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なお、実際に減価償却を開始するのは取得日ではなく「資産を事業のように供した日」からですが、上記の減価償却方法の変更に関してはあくまでも「取得日」が基準になります。

たとえば、機械装置を平成19年3月31日に取得して平成20年4月1日から使用開始したなら法定償却方法は「旧定額法」になる、という感じです。

【参考】法人の法定償却方法・選択可能な償却方法の取得時期別まとめ

参考までに法人のものもまとめておきます。

資産の種類 取得時期 法定償却方法 選択可能な
償却方法
建物 ~平成10年3月31日以前 旧定率法 旧定額法
平成10年4月1日~平成19年3月31日 旧定額法 なし
平成19年4月1日以後~ 定額法 なし
・建物附属設備
・構築物
~平成19年3月31日以前 旧定率法 旧定額法
平成19年4月1日~平成24年3月31日 定率法(250%償却) 定額法
平成24年4月1日~平成28年3月31日 定率法(200%償却) 定額法
平成28年4月1日以後~ 定額法 なし
・車両運搬具
・機械装置
・工具
・器具及び備品
~平成19年3月31日以前 旧定率法 旧定額法
平成19年4月1日~平成24年3月31日 定率法(250%償却) 定額法
平成24年4月1日以後~ 定率法(200%償却) 定額法
無形固定資産
(ソフトウェアなど)
~平成19年3月31日以前 旧定額法 なし
平成19年4月1日以後~ 定額法 なし

個人事業主が減価償却方法を変更する場合の手続きや必要書類について

申請手続をやっている人

ここからは個人事業主に絞って減価償却方法を選択する場合の手続・必要書類について解説していきます。

前提として、以下のことを思い出してくださいね!

  • 届出・申請は減価償却方法を選択したい場合にだけ提出すればOK
  • 届出・申請を出さない場合は「定額法」になる
  • 現行制度上、減価償却方法を選択できるのは「車両運搬具・機械装置・工具器具備品」

というわけで場面別に提出書類と手続き期限を見ていきます。

新規開業する場合

まず、新規開業する場合は「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」を、開業した年分の確定申告期限(通常は開業年の翌年の3月15日)までに提出することで、減価償却方法の選択が可能となります。

たとえば令和2年に開業したのであれば、令和2年の確定申告期限である令和3年3月15日までに届出書を提出すればOKです。

届出書という名称になっている事から分かるように、届出さえすれば受理されます。

なお、「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」は

・既に取得している減価償却資産と異なる種類の減価償却資産を取得した場合
・従来の償却方法と異なる償却方法を選定する事業所を新たに設けた場合

にも使用しますよ。

参考:[手続名]所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続|国税庁

既に償却方法が決定された資産の償却方法を変更したい場合

続いて、既に償却方法が決定されている資産について償却方法を変更したい場合は「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を、変更しようとする年の3月15日までに提出して下さい。

例)令和1年分の確定申告から減価償却方法を変更したいなら、令和1年の3月15日までに提出する必要があるという意味です。新規開業の場合より日程的にはタイトです。中古車等を使った節税策を利用しようと思っている方は日程に要注意。

これは、過去に上記セクションの「届出書」を提出していなかった場合も含まれますよ。
過去に届出書を提出していないって事は、償却方法は法定償却方法の「定額法」で決定済み!という事ですからね。

なお、書類名が「変更承認申請書」という名前になっている事からも分かるように、既に決定された減価償却方法を変更する場合は「届出」ではなく「申請手続」になります。

つまり、変更してOKかどうか税務署長により審査されるってことです。

・前回変更した時期から相当期間(3年程度)経過しているか(参考:〔減価償却資産の償却の方法(令第120条関係)〕|国税庁
・変更を認めても適正な所得計算が行われるか

などについて審査されます。

提出した年の12月31日までに何の連絡も無ければ、変更申請が承認されたという事になります。

逆に否認されると書面で通知が届きますよ。

参考:[手続名]所得税の減価償却資産の償却方法の変更承認申請手続|国税庁

相続や遺贈・贈与により取得した場合

相続のイメージ画像

親が亡くなり、自分が事業を引き継いだ場合などは少し注意が必要です。

相続等によって減価償却資産を取得することになった場合、税法的には購入などと同じ「取得」という概念に含まれるのですが、購入の場合と違って「取得価額・未償却残高・耐用年数」については被相続人のものを引き継ぎます。

ただし、減価償却方法は引き継ぎません。(参考:要注意!相続で取得した償却資産の減価償却

「たとえば、平成27年5月に被相続人が機械装置を取得して「定率法」を選択していたが令和1年に亡くなり、事業は相続人である長男が引き継いだ」

この時、相続により新しく事業を開始した長男(相続人)の機械装置の減価償却方法は、何も届出を出さなければ「定率法」ではなく「定額法」となります。

もし、引き続き定率法で償却したいのであれば「新規開業する場合」で書いたように、相続日の属する年分の確定申告期限までに償却方法の届出を出す必要があります。

相続人が既に事業を営んでいた場合

一方、既に相続人が何らかの事業を営んでいて、相続で取得した資産と同じ種類の資産を保有している場合には、既に保有している資産に適用されている償却方法で償却を行うのが原則となります。

変更したいのであれば、変更しようとする年の3月15日までに「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を出す必要がありますよ。(期限的にはかなり厳しいですね!)

ただし、事業を営んでいても、相続で取得した資産と同じ種類の資産を持っていなかった場合には、新規開業する場合と同様に「減価償却資産の償却方法の届出書」を相続した年分の確定申告期限までに提出すればOKです。

まとめると以下のようになりますね。

区分提出書類提出期限
①新規開業者
②同じ種類の資産を持っていない既開業者
減価償却方法の届出書相続日の属する年分の確定申告期限(翌年の3月15日)
③同じ種類の資産を持っている既開業者
減価償却方法の変更承認申請書変更しようとする年の3月15日

まとめ

個人事業主の場合、原則的な償却方法が「定額法」と決まっているので、新規開業の方はそこまで悩む必要はありません。

ただ、「機械装置・車両運搬具・工具・器具及び備品」に関しては定率法も選択できますし、定率法を選択したほうが税金的にお得になる場合があります。

シミュレーションをしないと「定額法」「定率法」のどちらで進めた方がお得になるかは分からないですが、定率法も選択できる場合がある!という事は知っておいてくださいね。

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