「外貨から別の外貨に変えた場合、税金がかかるの?」
こんな疑問を抱いた経験の有る方も多いのではないでしょうか。
一般的には、外貨取引といえば「円からドル」や「ドルから円」といった様に円の絡むケースが多いでしょう。しかし、中には「円⇒ドル⇒ユーロ」と通貨が変わっていったり(いわゆる「クロス取引)」、ドル建て預金を払い戻して外貨MMFを購入するなど、ちょっと変わった取引をする事も有ります。
このような取引をした場合、円に戻していなくても為替差損益を認識しないといけないのでしょうか?
ここでは、上記の様に外貨を別の外貨や外貨商品に変えた場合の税金関係について見ていきましょう。
基本は「円⇒外貨⇒円」で、円に戻した時に為替差損益を認識!
冒頭でも書いた様に、一般的な外貨取引(預金等)は円からドルなどの外貨商品に投資し、しばらくしてから円に戻す事でキャピタルゲイン(為替差益)やインカムゲイン(利子)を得ようというものです。
外貨預金をした場合、円建ての預金と同様に利子を貰う事が出来ます。この利子については、源泉分離課税が適用されるので20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)が源泉徴収されて課税関係は終了です。
一方で、外貨から円貨に戻した際に発生する為替差益については、雑所得として総合課税の対象となります。総合課税の場合は、給与等他の所得と合算して税金計算を行う事になり、税率は所得に応じて5%〜45%の間で推移します(所得税とは別に住民税は10%固定で税金が計算されます)。
以上の取扱をベースにして、外貨⇒外貨などの取引について見ていきましょう。
外貨を別の通貨外貨に交換(両替)した場合の税金
例えば、100万円を1万米ドルに交換し、その後でこの米ドルを8千ユーロに交換した様な場合、税金の計算上は為替差損益を認識しなければならないのでしょうか?
答えは、Yesです。円貨をドルに交換し、その後さらにユーロに交換した場合は、ドルからユーロへの交換時に為替差損益を算出し、所得の計算に反映しなければなりません。
理由は以下の通り。
所得税の課税対象は、所得税法第36条で以下の様に「収入すべき金額」とされています。
第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
そして、上記の例ではドルをユーロに交換した際にユーロを交換時のレートで円換算した金額と、当初円からドルに交換した際の金額との差額は「収入すべき金額」として実現していると考えられるので、所得税の計算上は為替差益として認識しなければならないのです。
上記の例でいくと、為替差益の金額は20万円{=(8千ユーロ×150円)—(1万ドル×100円)}となり、この金額を所得として認識する事になります。
なお、外貨建ての預貯金のうち、元本や利子が予め設定した率によって他の通貨で支払われる場合の元本部分の為替差益については、注意が必要です。例えば、「みずほ特約付き外貨定期預金(クロス取引) ワンポイント・エクストラ(ゼロバリアタイプ)(※)」などがそうですね(参照元:みずほ特約付き外貨定期預金(クロス取引) | みずほ銀行)。
※:預け入れする時は米ドルなのですが、判定日の為替相場が申込時に設定した判定相場より相対通貨安の場合に、外貨の元利金を相対通貨に交換して相対通貨で受け取る事になるタイプの預金。
この様な商品の場合、支払時に課税(利息は源泉分離課税、元本は総合課税)される事になっています(所得税法第174条第7号、第209条の2、所得税法施行令第298条第4項第2号)。
「円⇒外貨⇒円」の様に、円から円に戻る往復の取引だけでなく、別の通貨に交換される場合でも課税の対象になる、という事は知っておきましょうね。
外貨預金を引き出して外貨建MMF等に投資した場合の税金
米ドルで預金していたものを一旦全額払い出し、その全額をそのまま外貨建MMFに投資した様な場合の税金はどうなるのでしょうか?つまり、投資媒体が変わるような場合ですね。
結論としては、外貨建MMFに投資をした時点で外貨預金の為替差益を所得として認識する事になります。
参考:預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い|国税庁
所得税では、評価差額(含み損益)については所得の認識をする必要が無いのですが、外貨預金を払い出して外貨建MMFに投資した様な場合には、新たな経済価値を持った資産が流入した事によって、それまでの評価差額が「収入すべき金額」として実現したものと考える事が出来ます。
従って、外貨建MMFに投資した金額(円換算額)とその投資に使ったドル預金を取得した際の金額(円換算額)との差額を、為替差損益として所得計算に含めなければならないのです。
例えば、ドル預金(10万ドル分)を預け入れた時のレートが1ドル100円で、外貨建MMFに投資した際のレートが1ドル110円だった場合、為替差益の金額は100万円{=10万ドル×(110円—100円)}となりますね。
参考:外貨建MMFを譲渡した際の所得計算には、外貨建MMFヘ投資した際の為替レートで円換算した額を取得金額として使用する事になります。また、2015年以前は外貨建MMFの譲渡や為替差益は非課税でしたが、2016年以降は上場株式等と同様の扱いとなっているので、要注意です。
外貨建の定期預金を満期日に払い出し、別の金融機関に外貨預金として預け入れた場合の税金
例えば、A銀行に米ドル建ての定期預金を預け入れていて満期になった際に、全額を払い戻してB銀行に元本部分をそのままB銀行に預け入れした場合、B銀行に預け入れした時点で為替差益を認識しないといけないのでしょうか?
答えはNoです。このケースでは為替差益を認識する必要は有りません(参考:外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い|国税庁)。
そもそも、外貨建取引については所得税法第57条の3第1項で以下の様に説明されています。
(外貨建取引の換算) 第五十七条の三 居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下この条において同じ。)を行つた場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。次項において同じ。)は当該外貨建取引を行つた時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする。
外貨で資産の販売や購入、役務の提供、金銭の貸付や借入をした場合など、幅広く外貨建取引に該当する事が分かりますね。
但し、所得税法施行令第167条の6第2項では、
- ①同一の金融機関に
- ②同一の外国通貨で
- ③継続して預け入れる場合の預貯金の預け入れ
については「外貨建取引に該当しない」としています。
上記のケースでは、A銀行に預け入れていた外貨預金を払い出して別の金融機関に預け入れていますが、同一の外貨で行われている限りは、上記3つの条件を満たすものと考えられる為、外貨建取引に該当しない事になります。
従って、所得税の計算上は為替差損益を必要が有りません。
まとめ
外貨を別の通貨や外貨商品に変えた場合の税金について見て来ました。
基本的に、外貨を円に戻さずにさらに他の外貨へ交換した場合でも、税金の計算上は為替差損益を認識しなければなりません。
給与所得者の場合、給与以外の所得が20万円以下であれば、確定申告をする必要が無いので、ちょっとした外貨預金であれば確定申告の必要は生じないでしょう。
注:所得が20万円以下の場合でも住民税の申告は必要。
しかし、投資としてそこそこまとまった金額を投入している場合は為替差損益の申告が必要になるケースが考えられるので、注意しましょうね。